





本日は、たくさんの皆さんに集まっていただき、ありがとうございます。プントでの個展は今回で4回目になります。今、私は愛知県で大学の教員をしながら作品づくりをしています。また、金沢美術工芸大学大学院博士後期課程で3年目になり、ドクター取得のためにかなり追いつめられながら制作をしているところでもあります。今日はスライドレクチャーの形でお話しますが、その中で特にお話したいことがあります。私はこれまで作品をギャラリーなどでの展示を中心としてきました。しかし、作品を展示して終わり、とは考えていません。展覧会の後に、作品の向こう側の環境の中でこういうふうに扱ってほしい、建物の中でこういうふうに展開したい、という思いがあります。そういうわけで、今日は、作品のことだけではなく、「作品と空間」ということについて、特にお話できればと思っています。
まず最初のスライドは10年程前の作品にさかのぼります。今、スライドに出ているのが成羽町美術館の個展です。

それまで、公共の場に作品を置くというイメージをもちながら制作してきましたが、実際にはホワイトキューブ(白い壁の四角い展示室)のギャラリーが発表の中心でした。成羽町美術館は安藤忠雄さんによる建築で、非常にドラマチックなつくりで、自然光も入り、とても開放感のある空間です。そこでの展覧会の話をいただいた頃は、なにか人がからんだ作品ができないかと模索していた時期でもあり、展覧会の為に大きな作品、直径5メートル位のサークル状の作品を作っていました。その後展覧会の準備の過程で美術館全体を使って展示をしてほしいという提案を受け、それまで岡山県立大学で7年ほど教員をしていましたので、その間につくった作品を総動員することにしました。

成羽町美術館での展示は、ギャラリーの四角い部屋に並べていくのとはまったく違って、空間と対話をしながら作品をレイアウトしていく、例えば階段で作品を展開するというようなこともして、本当に貴重な経験になりました。
次は、後楽園の「ガーデン」の展示です。これは、話をもらった時にはとても難儀なことだと思いました。後楽園というのは空間が完璧で、それ自体が完成されていますから。最初は何をつくったらよいのかわかりませんでしたが、後楽園の上に広がる空の色が反映するような、雲の白と空の青を映すような、鏡のような作品ができないかということを思いつき陶板作品をつくりました。

スライドでは白く見えるだけで作品のよさがよくわかりませんが、実際には見る方向で青の濃淡が現れたり白色の表面が細かな凹凸によって作品の色調が変化します。

ここでは、作品を置くことによって、そこにいる人の視線がそこに集約されることになります。松林の中で、作品に光が落ちて、風の匂いだとかいろいろなものが感じられる、そういうものまで感受することができないかと思っていました。そうやって環境を取り込むことを意識した作品展開ができたのではないかと思います。
次は、PuntoとAOでの展示です。Puntoでは壁に展開する作品をつくってきたのですが、AOの方では、実は壁がコンクリート打ちっぱなしになっていて、ネジやクギがまったく使えませんでした。そこで、今度は作品をコーナーや床に置いてみました。


床に作品を置くことで作品の見方、見え方に変化が出て、空間に動きが出たのではないかと思います。
AOでの展示は後で、「まちや」で階段の隅に作品をつかうことに結びつくのですが、こうやって空間全体を使って表現することに広がりが出てきました。

それまでは、「空間」、「場」への意識がおぼろげだったのですが、作品には「場」が必要で、人がかかわって、生活があって、造形物が造形物として置かれるだけでなく、さらに風景があって・・・。そういうことも含めて作品ではないかと思うようになりました。「まちや」での展開は、古い雰囲気を取り込むことができたのではないかと思っています。
また、コーナーに作品を置くことから、作品を空間の真ん中に持ってこれないかと思ってやってみたものもあります。

まるで三角形が切り立っているような感じになって、そういう見え方のおもしろさも発見しました。
次は、ペニンシュラホテルでのスライドです。

これはインテリアとして依頼を受けてつくったものです。かなり細かい色の表情が見えると思います。右から見るのと左から見るのとで表情がかなり変わります。なにかを具象的に表現しているわけではなく、色の変化のようなものを作品にしたかったものです。

これはスイートルーム、1泊80万円(作品より高い!)くらいする部屋に置いたものです。実はここは大きなガラス窓が開いて危ないので、人が窓の淵にのらないようにフェンスの様な作品を作れないか、ということで話をいただいたものです。
これは、東京のなびす画廊の個展での作品で、それまで抱いていた壁一面をやってみたいという思いを実現したものです。

ひとつひとつは45センチくらいの柱状のユニットなのですが、これを集めて大きくすると印象がまったく違って、目算が狂いました。この時は、見る人が作品に対峙した時にどういうスケール感で見るかということを考えさせられました。
そういう経験を経て、見る人と作品の距離感がより自分の中の関心事になりました。

これは床に置いたりして、空間の特性をいかしながらおもしろく見える方法はないかと模索したものです。空間があって、人がいて、それをどれだけイメージできるか、ということが大きいと思います。