雨の中、昨日より石川和男の「Tangents / タンジェント」が始まった。

今回は、2年前と比べ更に進化した作品群が揃い、正直 展示に迷うこととなった。

何しろ、小さめの作品でも置いてみると想像以上に空間を支配する。

石川さん曰く「イラストレーションの様にその中で完結しているわけではなく、

それぞれの作品に与えられている外側の空間も設定しているので、

詰めて展示すると、エリア同士が干渉して息苦しく感じてしまうかもしれない」と。

そう言われていたことが、展示してみるとすぐに分かった。

石川さんの作品は画面の内外に異なる幾つもの視点を置き、そこから導かれた形を紡いで画面が構成されている。

いわゆる絵画に用いられる技法である消失点がいくつかあり、

そこから実際に様々な形が出来上がっていく過程は、作家独自のハウツーによって作られている。

どこを切り取っても基礎的な確固たる理由が存在するのは、明確な意図に基づいている。

無駄なものをできる限り省くことで、研ぎ澄まされていくようにも見てとれる。

その本流は、中世から受け継がれるアカデミックな絵画にも見られ、

一見、現代アートに属するとも見える作品は、とても伝統的な流れをくんでいるようだ。

重厚な絵画とでも言うのが近しいだろうか。

近年、海外で作品発表をしている石川さんにとって、向こうでの経験は大きな要素となり、

作品へ多大な影響を与えていることは一目で分かった。

コンセプトはもちろん実際の作品がどうであるか、

偶然の産物では全く評価されないシビアな場所でもあると言われるように、

以前に比べてより明確に、それが見る側へ普遍的な印象を増しているようにも思う。

石川さんの場合、作品に自分の感情や物語性を含めないと言われている。

作品に自分を入れたくないという考えは、とても納得した。

私は最初に作品を見る時は、頭をあまり働かせず対象から受ける印象をまずは捉えたいと思っている。

作品を最初に観た時にサバの死んだような目になっているのは、そのせいである。

相反することを言うが、作家の意図の読解を目的としない受け手の立場からは

あまり理詰めで物事を見ない方が、むしろ真実に近かったりすることがある経験からである。

これはもう、ニューヨーカーに蔑まれるくらいの曖昧さで(土下座)無知な発言に叱られそうだ。

そういう部分も作家にはお見通しだったと思うけれど(恥)

一方で、感情の危ういところは、作り手にとっては自己満足や意思疎通を阻む傾向も

はらんでいると、かねがね心のどこかで引っかかっていたからだ。

だから、作品に自分を入れないというのはとても腑に落ちたし、石川さんの明確さにも共感できた。

誤解のないように付け加えておくと、鑑賞者の見方は自由であり、

感情的なものを想起させるような作品にはそうなり得るように描かれた背景があるとも言われている。

少なくとも、作家自身の明確な意思を感じた。

過日のAI対談の脳科学の話が頭をよぎる。

意図を知り得ない多くの者が美しいと選んだモノの背景に

確かな理論が存在していることが明らかになれば、理論と感情は表裏一体で、

多くの人は言葉を巧みに取り出せないだけで、作家が言うところの意図を、

知らずもがな最良の脳でもって判断をしている仮設も立てられるのではないか。

今やいろんな人がモノ作りのカテゴリーに参加し、クリエイターやアーティストと称して活動をしている。

それは一見良いことに思えるが、そこには作家とは何たるかをもっと探る必要があり

私も含めて、それが表現の核心に迫れる最短の方法ではないかとお話を聞きながら考えた。

おそらく、石川さんと数日呑みながら話してみたら、今と同じことが言える自信が全くない。

明日改めてこの文章を読んだら、恥ずかしくて消すかもしれない。

これが、私が今言える確かなことなんだから、本当に無知で曖昧な自分を再確認。

石川さんは、近年ニューヨークで展覧会に参加するなど海外での評価も高い。

そんな石川さんは、現在 日本で展覧会をして作品発表をしているのは何とPuntoだけというから驚きである。

関東在住にも関わらず、遠い、こんな地方の小さなギャラリーを選んでくれることに心からの敬意を払う。

石川さんの「決して迎合してはならない」という固い誓いともとれる言葉に作家魂を見たし、

確かに「そんなものは作家ではない」はずである。

石川さんは、その言葉の通り嘘がない。

Puntoが尊敬する素晴らしい作家のひとりであり、企画展をできることを誇りに思う。

作品にスキがないことが敢えて作家の意図しなかったスキか?とも思ったが、

それすらも石川マジックに仕組まれたギミックかもしれない。

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石川和男の「Tangents / タンジェント」は11月3日(祝)まで、

是非、足を運んでいただきたい。

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