泉啓司 Keiji Izumi
「あわせてひとつ」

16 July – 27 July 2008

泉啓司作品「風船」泉啓司画廊にて

「機関車の煙は老人のあごヒゲ」 東京造形大学教授・彫刻家 三木俊治
ライン

写生的に表現する場合、絵には描きやすいが、彫刻には難しいモ ティーフがある。雲・水・火・煙、等々がそれである。とくに木彫などで表現する場合、これらは古来よりの約束ごとに法ったシンボリックな形態としてしか表現されてこなかった。というより写生的な表現は不可能とさえ思われてきた。ところが泉啓司の彫刻はその考えをいっぺんにひっくり返した。彼は、煙でも湯気でも水でも、なんなく写生的に彫刻してしまうのだ。
しかも単なる写生ではない。「機関車がモクモクと吹き上げる煙は、いつのまにか老人のあごヒゲだったり」「やかんのフタをとったら、沸き上がる湯気が子どもの体だったり」「蚊取り線香だと思ったら、渦巻き星雲だったり」「サーフボードを抱え持つ少年の髪が、波乗りに最適の波だったり」「ロウソクの炎が真っ赤なタコだったり」。彼はいつも観者の意表を突いて来る。
しかし彼のユーモアあふれる表現がアートたりえるのは、極上の木彫技術をもって、初めてなし得ることを見逃してはならない。
「アートの楽しみは、サプライズの楽しみ」。彼はいつもそれを裏切らない。さあ、泉啓司のテクニックとユーモアとサプライズを体験しに行こう。

「泉 啓司、作品を語る」

「老人と機関車」

「老人」

この作品を見ただけで、今回の展覧会タイトル『あわせてひとつ』がよく理解できます。老人の髭と蒸気機関車の煙が一体となっています。こんな変わった題材を選ぶ理由を泉さんは言います。「髪の毛とか髭、煙、雲などのように形のないものに興味があります。形のないことをうまく表現としていかせないかと考えました。形のない分、自分の感情を表わしやすいのではないかと考えたり、また、木彫でしかできないこと、ノミの跡、チェンソーの跡などが油絵のナイフや筆の表現のように彫刻でも出せないかと思ってやっています」三木先生のお話にあるようにとても難しい題材だと思いますが、とても自然な感じがでていて、最初は木彫とは気付かないお客様もいらっしゃいます。

「老人」

「老人」

「波」

「波」

作品によっては、モデルとなる人物がいるそうです。この「波」という作品のモデルは大学の後輩で水泳も教えているスポーツ・インストラクターだそうです。「作品を作っていて、モデルがいない時よりもモデルがいた方が自分の気持ちが入りやすいとわかりました」と言います。モデルがいると「作品に親しみを見つけながら制作できる」らしく、制作のモチベーションが高まるそうです。実際、この作品は、3か月ほどの制作期間がかかっているそうで、それだけの期間モチベーションを維持するのは大変だと思います。

「波」

泉さんの作品に現れる人物については、特に顔が印象的で、作られたものではない命が宿っているように感じます。「顔については、見る側がよく見るので、厳しく見るはずなんです。その見る目を超えるようにつくらないといけない。見ている人が感動してくれる、そういう顔を作らないといけないと思っています」と顔については特に大切に考えています。

「波」

波も煙と同様、難しい題材だと思います。波はチェンソーまでも用いて作っているそうです。また、波と髪をひとつにしたのは「最初は関係ないものの方が彫刻としておもしろいかなあ、と単純に考えていた」そうですが、「波が波を見ている人(インストラクター)にもつながっていくような、その人が見ているビジョンを脳に取り込んでいるような形にしたかった、というのがありました」と、単純に形状の類似からだけ構想したものでない作品であることがわかります。

「2人」

「2人」

これもとても不思議な作品です。帽子のようなものは雲の上に頭を出した富士山です。いろいろな題材を取り込んでいます。

「2人」

作品の人物の2人は、「最初は、地球があって丸いので裏側にもいる、そういうつながりを地面を省略したように表現したかった」と大きな構想で作り始めたようですが、作品の2人の関係は「つながっているところもつながっていないところもある。結局裏側で立っているので会えない、それを意識するかしないかは本人たち次第」と、現在の危うい世界の関係を表現しているようにも思えます。

「2人」

泉さんが粘土(モデリング)でなく木彫(カービング)を選んだのは「木はいろいろな表情があり、自分が思った形、あるいはそれ以上の形がカービングで出来る気がします」ということが背景にあります。泉さんの木彫はかなりの時間をかけていますので、そういう思っている以上の形を「急に掘り当てたときのワクワク感、思っている形に行き着いた時の喜びはカービングにある」と考えています。「これからもますます木彫の幅を広げていきたい」と強い意欲を聞かせてもらいました。

泉 啓司ギャラリーにて

インタビューを受けながら、次の作品の構想を練る泉啓司さん
(泉さんは毎日在廊しています)

galeria-punto

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