片山高志
個展「personal perspectiveU」を開催中の片山高志に、Galeria Punto
スタッ フ、米良尚子が インタビューしました。
片山高志の確かな才能、絵に対する 哲学、個展コンセプト、そして、作家
としての決意を語ってもらいました。

■片山高志の確かな才能
米良「3月には西脇市岡之山美術館でサムホール大賞受賞者の個展、その直後に神戸のギャラリー
AOで個展、そして、ここ Puntoでの個展と大活躍の片山 高志さんですが、意外にも油絵を描き
始めてまだたった3年なんです ね?」
片山「はい。油絵って、すごくなんだろ、高尚なイメージがありまして、巨匠ゴッホ!(笑)みたい
な感じで、あまり興味もなかった んです。高校生の時は完全 に落ちこぼれていて、先生から大
学に行くのか?と聞かれて、お しゃ れに興味があったので、ファッション学科に行こうと思いま
すなんて返事をしました。すご く適当な考えだったんです。それで、美大に行こうと思ってデッ
サン教室に2年生の後半から通い は じめました。そしたらファッションに興味が無くなって、
絵 で行けそうな気がしてきたんです。 で、グラフィックとかデザイン学科とか受けましたが、全
部落ちましたけど(笑)。その頃 は 油絵のことはよく知らなかっ た。油絵何か古いと思っていま
した。ところが3年くらい前から 急 に気になり始めたんです」
米良「描き始めてどうでした?」
片山「サムホール大賞をとったのが最初の1枚目。すごくラッキーだったと思います」
米良「そうですね、いきなり大賞をとるなんて驚きですが、片山さんの絵は描写、デッサン力がす
ごくあるように感じますけど、ほ と んど独学だったと聞いてい ます」
片山「そう、受験のときはそんなにやってなかったし、それからは自分でやっていました。美大に
落ちて東京に出て行って、だけど ちょうどそのころ父親がガン で亡くなった。東京と岡山の間
を行ったり来たりでそんなに時間 も なかった。だからすごくデッサンをやったということはなか
ったんです。でも絵を描くのは小 さい頃からすごく好きで、本格的に習ったことは全くない。
とにかく小さい頃からキャンパス に向かってというわけではないけど、時間があれば色んな紙に
ずっと描いてました」
米良「そうですか、片山さんの場合はそうやって基礎が作られてきたわけですね」

■ダリなどに似ていると言われることについて
米良「ところで、とても聞きにくい質問で申し訳ないのですが、片山さんの絵がダリっぽい、マ
グリットぽいだとか言われるのは どう思いますか?」
片山「描いている人だったらわかると思うけど、描いている時は本当にひとりぼっち。マネしよう
としてもできるものではないで す。 それはダリとかマグリット とか見たことはあるので、影響と
かは受けてい るかもしれないけど、その人の絵をいつも見ているわけではないし、とにかく絵を
描く時はいつも自分だけで真剣 勝負しています。むしろダリが偉いと思う。ダリがその域まで描
いてしまった人だと思う。うまく 言 えないけど。だから、似かよってますね、といわれてもそう
ですかね、と言うしかないです」
米良「そうですね、絵を見る時、私たちも気をつけないといけないのですが、他の作家と比べるこ
とが多くて、作家を真正面からそ のままを見る人が少ないよう に思います。何かカテゴライズし
て安心して、 何かに収めないと理解できないみたいなところは確かにありますね」
片山「そう、描いている時にそのカテゴリーに収めようとしているわけではないですから」

■「personal perspective」について
米良「個展タイトルである『personal perspective』というのはどういう意図があるんですか?」
片山「パースペクティブというのは『遠近法』という意味があるのは皆さん知っていると思いま
す。だけど、『展望』か『つりあ い』とかそういう意味が含まれ ているんですね。遠近法では『
遠(い)』、 『近(い)』というふたつの要素がありますが、人にもそういうことがあるのでは
ないか、例えば、それを人では 『過去』と『現在』というように同じようにとらえて、人が過去
と現在のつりあいをとって生きて いる、その感じをなんとか表現できればと思って描くわけで
す。そうなると、結局個人を描く ことになり、 パーソナル・パースペクティブというタイトル
になっ ていった。ひとつひとつの作品が個人を描いているわけです ね。もうひとつ例をあげる
と、出品作のひとつ に『器』という題名のものがありますが、これはその人の器がテーマです。そ
の人が展望とか意思を持って生き て いる、その感じを描くわけです」
米良「一種の人物画ということですね。しかし、人物ということなら、よく質問されることだと思
いますが、作品に人の顔がないの はどうしてですか?」
片山「人の顔は僕は好きですが、しかしそれを描くと無理がでてきます。絵の世界観が人の顔で
決まってしまうからです。悲しい 顔なら悲しい絵、楽しい顔なら 楽しい絵、そういうことになる
のはもったいな い。そんなことではなく、見る人が投影できるのがいい。自分の顔が浮かんでき
てもいいし、誰かの顔が浮かんで もいい。そういう想像ができることがよいと思うので、顔は書
かないわけです」
米良「なるほど」
片山「絵は、いろんな風に感じてもらえればよいと考えています。それはいつも強く意識してい
ることです。実際そうなっている かどうかは別にして、絵はい ろんな方向から見えるように描い
ているつもり です」

■片山高志の確かな哲学
米良「片山さんの絵を構成しているひとつひとつの事物はかなり具体的ですね。もう少し抽象的な
表現があってもおかしくないと思 いますが?」
片山「いろんな感覚、曖昧な感覚、しかし曖昧というのは実際にはないもの。だからあくまで具体
的なものとして描く。曖昧なもの を見ても何も感じないから。 だから僕は何を描いているかわか
らないような 抽象画を見ても何も感じないんです。だって現実世界ではぼんやりしたものは見な
いでしょ。人の感覚というもの は実際の現実のものからしか出来上がってこないわけで、結局自
分の頭の中ですごく曖昧なことに していることが多いから。だから僕は曖昧に描きたくないん
です」
米良「もう少し具体的に説明してもらえますか?」
片山「例えば、悪いことを思い出すと、重たい。その重たい感覚を抽象的に描くことは簡単ではな
いかと思うんです。実際には、会 社で使えないから首!とか言 われたり、どこかで転んだとか、
そういう嫌 だったことがリアルに積み重なっているはずなのに、思い出のなかで抽象的になっ
ている。その抽象的なことも絶対 内容物があるはずと考えています」
米良「感情は描かないということですね?」
片山「感情そのものを描いてしまうと、それ以上に行けない。だけど、現実(具体)を描くとそこ
から生まれるものがある。その生 まれるものが大切だと考えて います。自分も生きている、絵を
描いているだ けではない。全部現実から得て生きているわけだから、現実(具体)を大切にした
いと考えています」
米良「これから抽象画を描くことはないということですか?」
片山「抽象画を否定しているわけではないですよ。本当に凄いものはいい。だけど、今はあまり興
味がもてないんです」

■作品の細部への配慮について
米良「片山さんの作品に近づいて見ると細かいところを描きこんでますね?例えば、意外なところ
に魚がいたりして、とても楽しい です」
片山「銅版画、メゾチントをやっていた影響があったと思います。もっと簡単に描くこともできる
んだろうけど、一応自分なりの哲 学は絵の中の辻褄を考えてい ます。ここは細かい方がいいだろ
うというルー ルがある。それにしたがって描く。世界観がより伝わるように、細かいものが必要
なら描くし、そうでなければ描 かない、というようにしています」

■新しい傾向の作品について
米良「今回もたくさんの作品を出品してもらいましたが、いくつか傾向が異なるものがありますね」
片山「僕は描きたいテーマがそんなにつながっているわけではないです。スプーン(作品『彼女の
中で溶けた何度目かの自分』のこ と)だって急に出てきただ け で、理屈はつけられないで
す。ぽんとぬけたよ うに出てくる絵もあります」
米良「前回のPuntoの個展はタイトルが『耳人展』で統一感がありました」
片山「いろんな考え方がありますが、展覧会に行って案内はがきのコピーみたいなのがいっぱいあ
るのはどうなんだろうと思うよう になったんです。それが嫌い な人にとってはそれ以外はないで
すから。だか ら今回『耳』を出さなかったわけです。耳が嫌いな人にとってはつまらないかもし
れない。もちろん、同じことを ずっとやっていて本当に素敵ならいいと思いますけど」

■片山高志の絵を見る人に対する思い
米良「絵を見る人のことをよく考えているんですね?」
片山「上京したばかりの19歳ごろは、通行人相手に絵を描いてたから、絵なんかどうでもいいと
考えている人達にみせていたか ら。絵がどうやったら振り向い てもらえるか、ということをずっ
と考えていま した。笑顔で『こんにちは』(実際ににっこりして、かなりの営業スマイルです)
みたいにして、『よかったら 見ていってください、ポストカード150円、買って下さい』み
たいにやっていました。1日5万 円売ったこともあるんですよ。ポストカードだけで。どれだ
けしゃべるかが勝負、『あんた面 白 いから買うわ』みたいに言ってもらって、楽しんでもらえれ
ばいい、とういような考えがあり ましたから。それが今に影響して いるかもしれないです。普通
のサラリーマンの 方が10分くらい迷ってTシャツを買ってくれたり、おばあちゃんが悩みに悩
んで震える声で『あれがほしい』 み たいに言ってくれる、こういう経験がよかった。いまだにそ
ういう目が残っています。絵なん かどうでもいい人がいる、というのを常にもって描いています」
米良「自分と絵しかない、という作家の人もいますよね」
片山「僕は覚悟がたりないのかなあ、でも描いている時は真剣に描いていますよ」

■絵描きとしての生活
米良「絵描きの生活はどうですか?普段はアルバイトとかしてるんですか?」
片山「そうですね。今回、幸い個展が続いたので(西脇→AO→Punto)バイト代を貯めて制作に専
念してました。」
米良「絵を描くことが中心の生活だったのですね。展覧会とか本当に何もない時はどうしてるんで
すか?」
片山「コンテストとかに出品する作品を描いてます。今は9割絵を描く生活しています。飯食っ
て、絵を描くだけ、太るし (笑)。絵描きは、絵を描いて、生活 できる人だと考えています。僕は
まだ生活でき てないので絵描きとは言えないかもしれない。全然食えないから」

■海外進出への考え
米良「海外への進出は考えていませんか?」
片山「それは機会があれば行きたいです。でも、日本でだめな人は海外でもだめじゃないかと思う
ようにしています。結局場所じゃ ないと思っている。今は今の 展覧会をこなすことに精一杯。で
も本当に日本 に絶望したら行きたいなと思います」
米良「日本は美術環境がよくないとか言う人がいますね」
片山「僕は信じてないです。知らないから平気なんだと思うけど。絵の話ではないけど、能力がな
いから会社に文句を言う人と一緒 で、自分のレベルがその程度 だからその会社にいるわけで、自
分が変わらな いと周りも変わらないのに、そんなことを言っているのは自分が変わる気がない
んじゃないかと思います。つまん ないとか言っている人はすごく嫌いです」
米良「そうですね」
片山「これまでの僕はいい人に出会っているから恵まれていると思います。知らないだけだとも思
うけど・・・」
米良「海外に出たくても出られないというのはないですか?」
片山「いえ、絵をかくときに大事なのはそのときの自分だから」
米良「いい言葉です」
片山「本当に海外へ出ようと思った時こそ、その時が来た、という事じゃないかなと。ただ、絵は
ひとりで描くものです。戦う相手 が社会や、外の要因の場合も あるけど、常に最後は自分との戦
いなんじゃな いかな。」
米良「そうですね。作家とはそういう事かもしれませんね。これからも活躍を期待しています」
片山「ありがとうございます」
(インタビュー日、2008年5月6日)

(右:片山高志、
左:ガレリア・プント スタッフ 米 良尚子(アート・プログラム ディレクター) )